ここ数日、貴金属市場は激しい転換点を迎えています。インフレ懸念、安全資産需要、そして地政学的な不確実性を背景に金相場は史上最高値を更新しましたが、その直後に急落。ドル高や利益確定の動きが重なり、わずか1日で強気ムードが一変しました。
私は20年以上コモディティフローを追い続けていますが、これほど急速に熱狂から慎重姿勢へと転じた相場は稀です。

■ 何が起きたのか

月曜、金のスポット価格は史上最高値を記録した直後に5.7%下落。銀も同時に7%以上下げ、2013年以来最大の一日下落率を記録しました。背景には、ドル高による割高感、リスクオン回帰による安全資産離れ、そして大口投資家の利益確定売りが重なったことが指摘されています。

■ 見落とされがちなポイント

私が注目したのは、「金=安全資産」というテーマが過剰に織り込まれていた点です。市場全体が同じストーリーに群がると、出口の流動性は急速に失われます。ドルが強まる局面では、ドル建てで取引される金は相対的に魅力を失いやすく、今回もその典型例でした。
また、インフレ懸念や地政学リスクといった要素はすでに価格に織り込まれていた可能性が高く、今後の焦点は中央銀行の政策転換や実質金利動向に移りつつあります。今回の急落は、単なる調整局面の始まりにすぎないかもしれません。

■ トレーディングの視点

実務的な示唆として、次のポイントを押さえておきたいと思います。

  • 重要なサポートラインを確認し、テクニカル的な底値を見極めること。
  • ドル指数(DXY)と実質金利の動きを注視すること。これらは金価格の主要ドライバーです。
  • モメンタム取引をしていた場合はポジション縮小やヘッジを検討すべき局面。
  • 中央銀行の買い入れ動向、地政学リスク再燃時の再上昇リスクを意識。
  • 金価格の下落は、銀・プラチナ・資源国通貨(AUD、CAD、ZAR)にも波及する可能性があります。

■ これからの展望

今後は急落後の「もみ合い」局面に移行する可能性が高いでしょう。インフレ指標や中央銀行発言が予想外の強気に傾けば再び上昇の芽が出ますが、ドル高が続けば下押し圧力は強まります。
私が注目しているのは、ダブルボトム形成の可能性です。短期的な下落を経て再び高値を試す局面が訪れるかもしれません。
いずれにしても、もはや「安定した避難先」としてのゴールドは過信できない時期に入っています。