2025年のゴールド市場は、私がコモディティフローを追い始めて20年余りの中でも、指折りの「熱い年」になりました。年初からの上昇率は約60%に達し、金価格は一時1オンス=4,381ドル超の史上最高値を更新。

足元では4,200ドル前後での持ち合いに入りつつありますが、これはむしろ“息継ぎ”に近い印象です。インフレ懸念、財政赤字、地政学リスク、そして弱含む米ドル——セーフヘイブンとしての金にとって、これほど揃いすぎた環境はそう多くありません。


いま何が起きているのか

直近のトピックは、大手投資銀行による強気な金価格予想の相次ぐ上方修正です。

  • ドイツ銀行:2026年の平均価格予想を4,000ドル→4,450ドルへ引き上げ。想定レンジは3,950〜4,950ドル。
  • UBSや他のハウスも4,500ドル前後を視野に入れた強気見通しを提示。
  • 一部では「2026年に5,000ドル到達」のシナリオすら語られ始めています。

実需面でも、各国中銀の金購入が継続し、ETFへの資金流入も下値を支える要因として意識されています。結果として、ジュエリー需要向けの供給はタイトになり、価格弾力性はむしろ低下している——そんな構造的なタイトネスが見えてきます。


ヘッドラインの裏側

ここ数週間、多くのヘッドラインは「金が高い」「予想が引き上げられた」という表層を追いかけていますが、私が気にしているのは**“どの程度まで高値が正当化されうるか”**という点です。

チャートで見ると、

  • 4,300〜4,400ドル帯には明確な gold resistance level が意識されており、
  • 一方で4,000ドル近辺には、ETF買いと中銀需要が作る厚いサポートゾーンが見えます。

つまり、短期的には“4,000〜4,400ドルの新レンジ”を模索しているフェーズであり、ここをどちらに抜けるかで、2026年のストーリーが大きく変わる可能性があります。

1970年代の金相場を振り返ると、本当にバブル化した局面では価格だけでなくボラティリティも同時に爆発しました。当時のチャートと現在を重ね合わせてみると、少なくとも現段階の上昇は「バブルの最終局面」ではなく、「構造要因に支えられた強いブル相場の中盤」という印象が強いのです。


Trading Takeaways(トレード上の示唆)

トレーダー目線で整理すると、いくつかのポイントが浮かび上がります。

  1. 4,000ドル割れは“構造的押し目”の可能性
    中銀・ETF・長期マネーの3つの支えを考えると、3,900〜4,000ドルは“買われやすい”エリアになりやすい。プライスアクションを見ても、このゾーンではしばしばスパイク的な買いが入っています。
  2. レバレッジをかけたショートはリスクリワードが悪化
    ファンダメンタルズがここまで強くサポートしている局面で、「高いから」という理由だけでショートを組むのは危険です。むしろ、短期のオーバーシュートに対してオプションを使った逆張りを検討する方が合理的に見えます。
  3. 他のプレシャスメタルとの相対価値
    銀やプラチナ、パラジウムの供給もタイト化しており、金価格との連動性が高まっています。gold vs. silver” スプレッドのトレードや、金をベンチマークにしたバスケット戦略も面白い局面です。

20年ほど前、私は2011年の金高騰局面で「これ以上はさすがに行き過ぎだろう」と何度もショートを試みては踏み上げられました。その苦い経験があるからこそ、今回のような構造的な強気相場では「売りたくなったら一度深呼吸する」ことを自分に言い聞かせています。


Looking Ahead(今後のシナリオ)

この先を考えるうえでのキーワードは、

  • 米財政赤字と債務上限問題
  • 実質金利の方向性
  • 地政学リスクのエスカレーション有無

の3つになるでしょう。

私のベースシナリオでは、2026年に5,000ドルを一気に駆け上がるというより、

  • 2025年末〜2026年前半:4,000〜4,500ドルレンジでの高値圏レンジ相場
  • その後、米金融政策やリスク資産の動き次第で“上抜け”の可能性

という、やや時間をかけた強気ストーリーをイメージしています。

トレーダーにとって重要なのは、「金は高すぎる」かどうかではありません。「このボラティリティとトレンドを、どの器(先物・CFD・オプション・ETF)で、どの時間軸で取りに行くか」です。energy markets correction でリスク資産が揺れる局面ほど、ゴールドは“静かなヘッジ”から“アクティブなトレード対象”へと姿を変えていく——その変化に、今はちょうど差し掛かっていると感じています。