2025年秋まで、ビットコインは“インスティテューショナル時代”の勝者として、12万ドル超まで駆け上がりました。しかし、ここ数週間で景色は一変しています。

11月に入り、米国のスポットBitcoin ETFからの資金フローが反転。月間では合計約37.9億ドルの資金流出が発生し、そのうち約24.7億ドルは最大規模のIBIT(ブラックロックETF)からの流出でした。


いま何が起きているのか

今週、ビットコインはついに9万ドルの大台を割り込み、香港時間の取引で一時88,000ドル台まで急落。年初からの上昇分をほぼ帳消しにする形となり、今年2月以来の安値圏に沈みました。

この急落のトリガーになったのが、

  • ETFからの記録的な資金流出(1日で9.03億ドルの純流出という“第二のワースト記録”)
  • マクロ環境悪化懸念によるリスクオフ
  • レバレッジポジションのロスカット連鎖

という複合要因です。

オンチェーンデータを見ると、短期保有者(STH)の含み益比率が急速に低下する一方で、長期保有者(LTH)は依然として売りに消極的な構図が見えます。典型的な「ETF経由の新規マネーが揺さぶられ、古参は静観」という局面です。

ヘッドラインの裏側

メディアは「ビットコイン暴落」「crypto winter再来か」といった見出しを並べていますが、15年以上この市場を追いかけてきた身としては、もう少し冷静に見たいところです。

今回の特徴は、“ETFマネー主導の下落” だということ。

  • 過去サイクルでは、先物レバレッジや現物信用取引のアンワインドが主役でした。
  • 今回は、規模の大きい現物ETFからの継続的な資金流出が、価格にじわじわと下押し圧力をかけています。

これは裏を返せば、「クリプト市場が伝統金融のサイクルに取り込まれた」ということでもあります。金や株と同じように、

  • ETFフロー
  • マクロ要因(利回り・ドルインデックス)
  • 規制動向

が価格変動の中心になりつつある。crypto volatility は、もはや“クリプトだけの物語”ではないのです。


トレード上の示唆

トレード目線で言えば、今回の調整にはいくつかの示唆があります。

  1. 9万〜9.5万ドルはテクニカル+ポジションの合流ゾーン
    ここには過去の高値・出来高の節・オプションのストライクが重なっており、割り込むと流動性が急に薄くなるポイントです。今回そこを明確に崩したことで、下落のスピードが加速しました。
  2. ETFフローを“レイテンシーのあるオシレーター”として扱う
    ETFの資金流出入は、日次ベースでしか拾えませんが、中期トレンドには極めて重要です。
    • 価格だけを見ていると「オーバーシュートだ」と感じる場面でも、フローを見ると「まだ売りが終わっていない」
    という状況がしばしばあります。今月のような極端なoutflowが続く限り、逆張りロングはサイズを絞るべき局面だと感じます。
  3. レバレッジは“後から”かける
    多くのトレーダーがやりがちなのは、「落ち始めでナンピンロング、さらにレバレッジを上げて踏まれる」パターンです。私自身、2015年の中国株ショックや2018年のクリプト崩壊で同じ失敗をしました。
    大きなトレンド転換局面では、まずノンレバまたは低レバで方向性を確認し、その後にレバレッジを乗せる——これを徹底することが、長く市場に残るための最低条件だと痛感しています。

今後のシナリオ

では、ここから先のビットコインはどうなるのか。

ベースシナリオとして私は、

  • 8万〜9万ドルゾーンでの「価格発見フェーズ」
  • ETFからの資金流出ペースが鈍化して初めて、本格的な底打ち確認
  • その後、半減期効果とマクロ環境次第で10万ドル台回復を試す

という“時間をかけた調整+再評価”のプロセスをイメージしています。

重要なのは、「価格の絶対水準」よりも、「この市場にまだどれくらい長期マネーが残っているか」です。
エネルギーセクターや金市場と同じように、ビットコインも今やグローバルマクロ・ポートフォリオの一部になりました。

crypto volatility は今後も続くでしょう。しかし、そのボラティリティを恐れるのか、それとも“設計されたリスク”としてポジションに組み込むのか——その選択こそが、2026年に生き残る投資家と、今年の冬で退場する投資家を分けることになると感じています。