きょうの暗号資産市場は、値動き以上に“空気”が重い。ビットコインは一時 82,300ドル前後まで沈み、2カ月ぶりの安値圏。市場が嫌がっているのは単なる利確ではなく、「次の金融環境が、想像より乾くかもしれない」という不安だ。

ここからは、私のマーケット日誌として残しておきたい。私はこの業界を二十年以上見てきたが、相場が崩れるときはいつも“理由”より先に“資金の出口”が見える。そして今回は、その出口が複数同時に開いたように見える。

Setting the Stage(舞台づくり)

この数週間、暗号資産は「政策が追い風になるはずだ」という期待と、「マクロが逆風のままだ」という現実の間で宙づりだった。金(ゴールド)は安全資産の物語で上に走り、株式はAI投資の評価で揺れ、米ドルは弱含みと反発を繰り返す。そんな中で、暗号資産は“流動性に敏感な資産”として、最も先に影響が出やすい位置にいる。

市場が特に警戒しているのは、金利そのものよりも **FRBバランスシート(流動性供給の器)**の方向性だ。きょうのニュースフローは、そこを正面から突いた。

What Just Happened(いま起きたこと)

きょうの下げの引き金は明確だ。次期FRB議長に関する思惑が一気に強まり、元FRB理事の ケビン・ウォーシュ氏が有力視される流れが広がった。
ビットコインは前日比で下落し、4カ月連続の月間下落になりかねない状況だという(8年ぶりの長い連敗)。最高値を付けた昨年10月からは、すでに 3分の1程度下げている。

そして、これは暗号資産だけの話ではない。株価指数先物の下落、米ドル高、米長期金利の上昇が同時に走った。市場は「利下げかどうか」より、「バランスシートを縮める世界」を想像し始めた。

Reading Between the Lines(行間を読む)

私がいちばん気になったのは、価格より 資金フローだ。CoinSharesの週次データでは、デジタル資産投資商品から 17.3億ドルの資金流出(1月26日公表、週次)が記録され、昨年11月中旬以来の大きさだという。
内訳も重い。ビットコインが 10.9億ドル、イーサリアムが 6.3億ドルの流出。地域別では米国に流出が集中(約18億ドル)する一方、スイス・ドイツ・カナダには押し目買いの流入も見られた。

つまり、こういう構図だ:

  • 米国の大口資金がリスクを落とし、
  • 一部の地域は「安くなった」と見て拾う、
  • しかし価格は“出口のスピード”に引っ張られて下へ伸びる。

この手の局面で私が過去に何度も見たのは、ファンダメンタルズの議論が追いつく前に、清算(レバレッジ整理)が相場を先に終わらせるという現象だ。今回も似ている。CoinShares自身も、利下げ期待の後退や価格モメンタムの悪化が流出要因だと示唆している。

さらにデリバティブの温度も上がった。Deribitの週次分析では、週の序盤にマクロ要因を背景に 短期(ショート・テナー)のインプライド・ボラティリティが上昇したとされる。
“暗号資産のボラティリティが上がる”という事実自体は珍しくない。だが今回は、流動性懸念(バランスシート)×フロー流出×短期IV上昇が同時に揃った。これはニュース以上に、相場の体温を変える組み合わせだ。

Trading Takeaways(トレード上の示唆)

  • カギは「米ドル高」と「流動性の話」:暗号資産は「U.S. dollar strength(米ドル高)」に弱い場面が多い。議長人事が“バランスシート縮小”を連想させる限り、リスク資産全体が硬直しやすい。
  • ETFフローは“遅行”ではなく“先行”になる:今回のように投資商品からの資金流出が続くと、下げはチャートより“需給”で伸びる。週次で17.3億ドルの流出は、センチメントを一段冷やす数字だ。
  • レバレッジは敵にも味方にもなる:下げ局面では清算が連鎖しやすい。私はこういう日は「建玉を軽く、ストップを明確に、サイズを小さく」を徹底する。
  • 重要水準は“戻りの壁”として機能しやすい:心理的な節目(たとえば 90,000ドル近辺)が上値抵抗になり、下では“次のサポートライン”が試される。レンジではなく、段差を落ちる形になりやすい。

Looking Ahead(この先の見立て)

短期的には、焦点は二つ。

  1. FRB議長指名の確度とメッセージ:市場が怖がっているのは人物そのものより、「流動性を絞る」方向性だ。
  2. フローが止まるか:米国主導の資金流出が続くなら、反発は“短く鋭いが続かない”形になりやすい。一方で、地域によっては押し目を拾う動きもあるので、売りが一巡した後は急反発も起こり得る。

きょうの日誌の結論はこうだ。
暗号資産は「物語」で上がるが、下げは「流動性」で決まる。 そして今、市場は物語より流動性を見始めている。