金は再び「市場の感情温度計」として機能し始めている。1月末の急騰と、その後の痛烈な調整という荒い値動きを経て、地政学リスク、米労働指標の軟化、そしてFRBの政策パスをめぐる議論が再燃する中、金は心理的節目である1オンス=5,000ドルを奪還した。きょう早朝の取引では、スポット金が約1.1%高の5,016.89ドルまで上昇し、米国の4月限先物も上昇している。

私が注目しているのは価格水準そのものだけではない。金がここまでボラティリティを帯びると、宝飾需要や中央銀行の動き以上に、「金に似た商品」——より摩擦が少ない形で金へのエクスポージャーを提供すると謳うプロダクト——が試される。今週、それがはっきり表面化している分野が、暗号資産の一角で急拡大する**トークン化ゴールド(tokenized gold)**だ。

背景整理

足元の環境は、米ドルの強弱、金利見通し、そしてヘッドラインが生むリスクプレミアムが綱引きをしているように見える。市場は「往復ビンタ」の様相だ。金は2026年1月29日に5,594.82ドルの最高値をつけた後、急落。報道では、1983年以来の最大の1日下落を記録し、その後のセッションでも2日連続で大幅に売られるなど、歴史的な下げ方になったとされる。

それでも、金はいま再び5,000ドル超に戻ってきた。これは、マクロの確信度が高い一方で、ポジションが脆いときの市場に典型的な姿だ。私が20年にわたり貴金属サイクルを追ってきた中で最も危険だと感じるのは、長期ストーリー(政策リスク、通貨価値の毀損、地政学的不確実性)については多くが同意しているのに、短期の道筋(ドル、利回り、流動性)では激しく対立し、値動きが荒れる局面である。

何が起きたのか

きょうの上昇には、主に2つの触媒がある。

第一に、労働指標が弱含んだこと。
米国の民間雇用者数(1月)が22,000人増となり、市場予想(48,000人)を大きく下回った。これにより市場には「利下げが早まるかもしれない」という反射が戻りやすい。

第二に、地政学が画面から消えないこと。
米・イラン協議は金曜日にオマーンで行われる予定だが、報道では、論点と要求の範囲をめぐって両者の隔たりはなお大きいと強調されている。外交が再開しても、議題の曖昧さが安全資産需要を“くすぶらせる”典型パターンだ。

値動きとして重要なのは、5,000ドルが「レジスタンスからピボット(分岐点)」へ変化しつつある点である。急激な投げ売りの後にこの水準を回復する動きは、多くの場合、「政策リスク・ヘッジ」という物語を市場がまだ織り込み終えていないサインになりやすい。

行間を読む:ボラティリティは“商品設計”に波及する

見落とされがちな論点は、金のボラティリティが市場構造とプロダクト設計、とりわけ「金のトークン化」に波及し始めていることだ。

報道によれば、金のトークンは約20種類が存在し、合計時価総額は約60億ドルに達する。このセグメントは2024年末以降で4倍超に拡大しているという。売り文句は明快だ。「現物の受け渡しなしに金に投資でき、暗号資産のレールで素早く取引できる」。

しかし問題は、金が「木曜に最高値、金曜に急落」のような相場になるときにこそ、トークンの約束が投資家の最重要ポイントで試される点だ。つまり、**償還(レデンプション)法的な権利(クレーム)**である。

市場では透明性への懸念が指摘されている。

  • 金地金はどこに保管されているのか
  • 誰が管理・支配しているのか
  • 現物が本当に1対1で保有され、独立監査があり、ストレス時にも償還可能なのか

これは理屈の話ではない。過去には、MF Global(2011年)のように、コモディティ関連の破綻局面で「所有権」と「請求権」が複雑化した例がある。トークン化は、そこにさらに一段のレイヤーを加える。

一方で、次の値動きの下地として静かに効いてくるファンダメンタル材料もある。中国の2025年の金消費が3.57%減の950.096トンとなる一方、国内の原材料由来の金生産は1.09%増とされる。価格がこの水準になると、小売・宝飾側の需要は価格感応度が上がりやすい。だからといって「マクロ・ヘッジ需要」が消えるとは限らないが、需給面の抵抗は増え得る。

トレード上の要点(助言ではなく、私のチェック項目)

  • 5,000ドルの“磁力”を侮らない
    金のラウンドナンバーは心理だけではない。ストップ、オプションの権利行使価格、ヘッドライン反応が集中する。急落後に5,000ドルを回復し、維持できるかは、ヘッジ需要の残存を測る温度計になる。
  • 金そのものだけでなく「金の代理商品(プロキシ)」を監視する
    トークン化ゴールドが急成長すると、資金フローが増幅される。償還や信認が揺れたとき、巻き戻しは必ずしも滑らかではない。重要なのはブロックチェーンの“皮”ではなく、保管・監査・法的所有の明確さだ。
  • 貴金属間でボラティリティは伝染する
    銀は「貴金属=落ち着いている」とは限らないことを示した。先週に最高値をつけ、今週序盤には急落で安値を刻み、金が買われる日でも不安定さが残っている。
  • 物語は重要だが、最終的には“誰がリスクを持てるか”
    大手の見通しは長期の買いを補強することがある。例えば、報道ではゴールドマン・サックスが2026年末の金価格予想を5,400ドルへ引き上げ、分散需要や、FRBが利下げに動けば西側ETF保有が増える可能性を理由に挙げたという。賛否は別として、こうしたフレーミングは機関投資家の「押し目買い」か「リスク削減」かの判断軸を変え得る。

今後48〜72時間:2つの要因で試される

ここからの2〜3日は、典型的な「二因子テスト」になりそうだ。

  • マクロ要因:米景気の減速を示す追加材料が出て、利下げが再び現実味を帯び、実質金利が低下するなら、金には追い風になりやすい。
  • 地政学要因:オマーン協議がテールリスクを和らげるのか、それとも核心の未解決さを再確認させるのか。どちらに転んでも、ボラティリティは高止まりし得る。

私の基本シナリオは、一直線の上昇というより、ヘッドラインに敏感な広いレンジと、突然の「空白地帯(エアポケット)」の併存だ。金が「マクロ・ヘッジ」であると同時に「混み合った取引」でもあるとき、相場はそうなりやすい。

5,000ドルがサポートとして機能すれば、市場は再び「新しいレジーム」を語り始めるだろう。
もし割り込めば、長期ストーリーが死ぬわけではないが、道のりは荒くなる。そしてそのときこそ、「簡単に金を持てる」とされるプロキシ商品は、金が“行儀よく動かない”局面で何を本当に提供できるのかという、より厳しい問いに直面する。